景観規制の緩和で京都はどうなる?

家主様


日本を代表する観光都市である京都。2020年には世界で最も魅力的な大都市ランキングの一位になるなど、古くから守り抜かれた美しい景観は、今もなお多くの人々を魅了しています。しかし京都市はその美しい景観を守るための景観規制を2023年4月25日から一部緩和しました。この規制緩和には一体どんな意図があるのでしょうか?今回はこの京都市が行った景観規制の緩和から、京都市が抱える問題を読み解き、賃貸マンションオーナー様にどういった影響があるのかを考えていきたいと思います。

景観規制とは

景観規制とはその名の通り、京都の美しい景観を守るための規制です。京都市が1972年に日本で最初の景観条例、市街地景観条例を施行して以来、この規制は改正されるごとに厳しくなっていきました。そして2007年には新景観政策が実施されました。新景観政策により屋外看板や点滅するネオンの禁止、建物の高さは最も厳しいエリアで10m以下に制限されました。このように新景観政策では「高さ」「デザイン」「広告」に関してはとても厳しい内容になっています。今回はこの「高さ」に関する制限緩和について見ていきます。
また、今回の規制緩和は2007年に実施された新景観政策から考えると、大きな方針転換といえます。

高さ制限緩和

今回の景観規制の緩和により京都市における、建物の高さ制限が緩和されます。

● 阪急西院駅周辺 20m ➡ 31m
● JR向日町駅周辺 31m ➡ 制限なし
● JR京都駅南側 最大25m ➡ 31m
● JR山科駅周辺 最大31m ➡ 規制なし

このように今回の規制緩和の対象エリアは、JR京都駅南側一帯や阪急西院駅周辺の工業地域、山科区の環状線の一部に限られており、古都らしさの残る洛中エリアは規制緩和の対象外となっています。さらに今回は高さ制限の完全撤廃ではなく、一部の地域を除いて31mが最高限度として存続するため、京都の美しい景観を乱すようなタワーマンションの乱立などは考えにくいと思われます。

景観規制緩和の背景と狙い

ではなぜ今回京都市は景観規制の緩和に踏み出したのでしょうか。最大の理由は若い世代や子育て世代を中心とする、人口流出問題への対策です。2020年には世界の最も魅力的な都市ランキングナンバーワンになった京都ですが一方で、2020,2021年には国内で人口が減った都市ナンバーワンにもなっています。京都市のまちづくり計画によると、京都が抱える主要課題は「人口減少、少子高齢化の進展」「20~30代の人口の市外への流出」「オフィス不足と働く場所の市外移転」とされています。さらにこうした課題に加えて、長期にわたる財政難にも苦しめられています。これらの課題に対する対策の一つとして今回の規制緩和が実施されました。
ここで現在の京都市が抱える課題を高さ制限の観点から見ていきたいと思います。

【規制緩和前】
高層マンションが建てられない
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住宅の数が限られるが別荘など富裕層からの需要はある
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住宅価格の上昇
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市外への人口流出
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税収の減少

国勢調査によると、隣接する大津市から京都市への通勤・通学者は2005年からの10年間で約6,000人も増加しています。さらに大津市では現在も大規模マンション開発が進んでおり今後もこの傾向は続くと予想されます。京都市はこういった現状に対する対策として規制緩和を実施しました。次に規制緩和による京都市の狙いを見ていきます。

【規制緩和後】
マンション(住宅)の供給増加
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マンション(住宅)価格の下落
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人口流出の阻止・子育て層の回帰
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税収の確保

規制緩和後の京都はどうなる?

今回の規制緩和においてマンション(住宅)の供給数が増加することは間違いないでしょう。しかし、それによってマンションの価格が大幅に下がるかという点については懐疑的な専門家の方も多いというのが現状です。
そして、京都の美しい景観が損なわれるという点に関しても規制緩和エリアを限定している事から、そこまで大きな影響は出ないと思われます。
しかし、マンションオーナー様にとっては今回の規制緩和は少なからず影響があると言われています。京都は学生が多い事もあり根強い賃貸需要があります。それに加えて規制緩和前は住宅の供給数が少なかったため空室リスクも低かったと言われています。それが今回の規制緩和により供給数が増えることによって、競争が激しくなり空室リスクが高くなる可能性があります。
しかし新たに京都で賃貸マンションを建てようとしておられる方にとっては、今回の規制緩和は朗報と言えるでしょう。規制緩和前の低い建物では多くの住戸数は確保できません。住戸数が減少すると当然家賃収入も減ってしまいますよね。それが今回の規制緩和により多くの住戸数が確保できるようになれば、家賃収入も増加する事となります。つまり高い建物を建築することが可能となったことから、多くの家賃収入を得られることが出来るようになったのです。それにより、今後は新築賃貸マンションの増加が予想されます。